不完全性定理入門1 : 命題、公理と定理

世の中でもっとも誤用されている数学の定理はなんでしょうか?候補の一つとして挙がるのは、ゲーデルの不完全性定理だと思います。

自然数論を含む帰納的公理化可能な理論が、ω無矛盾であれば、証明も反証もできない命題が存在する。

引用 : ゲーデルの不完全性定理

理論、無矛盾などキャッチーな言葉が並んでいるこの定理ですが、その応用範囲は幅広く、実際僕も1年次の心理学の授業でこの定理に出会いました。不完全性定理を援用して人工知能と心の差異を主張する議論すらあります。この記事では、その応用範囲の広さゆえ誤解、誤用も目立つこの定理を直感的な方法で解説し、もって数学、論理学のバックグラウンドのない方が不完全性定理を応用した議論の正当性を判断できるようになることを目標としています。注 : 直感的な説明を行うため数学的な厳密性は損なわれている可能性があります。ご承知おきください。

命題

不完全性定理で言及されている「理論」とは何か理解するためには、まず命題を定義する必要があります。命題とは、一言でいえば真(正しい)か偽(間違っている)か確定している文のことです。例えば、「アメリカの首都はワシントンD.C.である」という文は命題です。「日本の夏は暑い」という文は、主観的な価値判断を含むため真偽が決まらず、命題ではありません。

公理と定理

公理の話をする前に、一般の論証について考えてみましょう。あなたはある主張をしようとしています。主張を述べるだけでは説得力に欠けるので、その主張を支持する理由も添えるかもしれません。しかし、その理由すら疑われてしまったらどうでしょう。あなたは理由をサポートする理由を更に述べる必要があります。このように、あなたの主張を完全に正しいものにするためには、主張の理由の理由の理由の…といった具合に無限に理由を加え続けなければなりません。

数学ではこのループを避けるために公理という概念を使います。公理とは、どんな理由もなしに正しいと仮定された命題のことです。公理系とは公理の集まりです。仮定である公理が正しければ、公理を組み合わせて導かれる新しい命題(これを定理と呼びます)も正しくなるはずです。

ここで1つ例を考えてみましょう。今2つの公理が与えられているとします。「太郎は人間である」と、「人間であれば生き物である」という公理です。これらの公理を組み合わせると、「太郎は生き物である」という定理が導かれます。

数学でも全く同じことをします。まず公理をいくつか用意して、それらの公理から新しい定理を導いていきます。公理は無条件に正しいとされていますので、それらから論理的に導かれた定理もまた正しくなる、という仕組みです。

理論

少し乱暴になってしまうのですが、簡単のため不完全性定理で触れられている「理論」とは公理系、すなわち公理の集まりのことだと考えてください。定理では「自然数論を含む~理論」とありますが、自然数論もまた7つの公理からなる理論です。自然数論の公理系があると、足し算や掛け算を行うことができます。よって「自然数論を含む~理論」とは、足し算や掛け算などの簡単な算術が許されている公理系のことだと思っておいてください。「帰納的公理化可能」の部分は長くなるため割愛します。

定理の後半部分の説明は次の記事で行うとします。公理についてのより詳しい説明は左の『不完全性定理』を参考にされたし。僕も大学1年次で読んだのですが、数学のバックグランドがなくても内容がきちんと理解できる本になっています。

 

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