不完全性定理入門2 : モデルという考え方

前回の記事ではゲーデルの不完全性定理の前半「自然数論を含む帰納的公理化可能な理論」について解説しました。

不完全性定理入門1 : 命題、公理と定理

本記事はその後半、「ω無矛盾であれば、証明も反証もできない命題が存在する」とは何か説明していきます。

モデル

前回の記事で「理論」とはざっくり言うと公理系のことだと習いました。公理とは理由なしに正しいと仮定する命題のことでしたが、正しいと仮定する以上、実際それらの命題が真となるようなコンテクストを考えてやらねばなりません。そのコンテクストがモデルという概念です。

「最小の数が存在する」という命題を例にとってみましょう。自然数の集合$\mathbb{N} = \{ 0, 1, 2, \dots \}$をコンテクストとして考えるならば、0という最小の数が存在するので命題は真になります。反対に、整数の集合$\mathbb{Z} = \{ \dots, -2, -1, 0, 1, 2, \dots \}$は最小の数を持たないため、命題は偽になります。このように、命題の真偽というのはその命題を考える文脈に依存していると言えます。

「理論」がいくつかの公理から成り立っているとき、それらの公理すべてを正しくする文脈のことをモデルと呼びます。私たちは理論の公理系が正しくあってほしいのでモデルを伴った理論を考えるのです。通常、各理論に対してモデルは複数あります。

無矛盾性

ω無矛盾について考える前に、矛盾という概念についてお話しましょう。論理学でいう矛盾とは、命題$A$と$\lnot A$(非$A$)が同時に導かれてしまう状況を言います。ほら、例えば$x=1$かつ$x \neq 1$なんて言われたら文字通り矛盾していますよね。

論理学では矛盾している理論を扱いたくありません。というのも、矛盾した理論からはどんな命題でも導かれてしまう(!)からです。例えば「埼玉県は独立した国家である」という命題も、矛盾した理論からは導かれてしまいます。少し予備知識が必要ですが、詳しい説明はこちらのサイトが分かりやすかったです。

「証明も反証もできない命題が存在する」ことを主張したい以上、どんな命題でも証明できてしまう矛盾した理論を扱うのはナンセンスです。そのため、不完全性定理では矛盾していない、すなわち無矛盾な理論を扱います。ω無矛盾とは無矛盾より少し強い条件なのですが、無矛盾と読み替えても大きな問題はありません。

証明と反証

命題が証明できるとはどういうことでしょうか?前回の記事で触れたように、数学では論証において、まず絶対的な仮定となる公理を用意します。公理は正しいとしているので公理から推論される他の命題も正しいと言えます。このように推論を重ねて得られる命題は、公理が正しい限りどれも真になることが保証されています。したがって、命題$P$が(正しいと)証明されるとは、理論の公理から$P$が論理的に導かれる場合と定義することができます。逆に命題$P$が反証されるとは、$P$の否定$\lnot P$が公理から導かれる場合です。

証明できない命題とは何か

以上で用語の説明は終わりです。これまで述べたことを使って不完全性定理をざっくばらんに言い直すと、定理は「簡単な算術を許された理論が無矛盾であれば、証明も反証もできない命題が存在する」と主張しています。証明も反証もできない命題が存在するだけで大変な事実ですが、ここでそれはどのような命題なのか考えてみます。

命題$P$がある理論から証明されるとします。その理論のモデルとなるコンテクストは複数ありますが、ランダムに1つ選んで$M$と呼びましょう。モデルの定義から、$M$の下で理論の公理は真となります。このとき$P$は正しい公理から論理的に導かれた命題で、また真になります。注意してほしいのは、ここで$M$は複数ある理論のモデルから好きに選んだ1つだということです。すなわち、すべてのモデルの下で$P$が真になることが分かります。端的に言い換えると、「$P$が証明されるならば、$P$はすべてのモデルの下で真」ということです。余談 : この逆、「$P$がすべてのモデルの下で真ならば、$P$は証明される」は完全性定理として有名です。

よって、証明される命題$P$とは”すべてのケースで正しくなるような普遍的な真理”であり、逆に証明されない命題とは”文脈によって真偽が異なる局所的な真理”と表現することができます。

関連書籍の紹介

2回にわたり紹介してきました不完全性定理ですが、詳しい話はこちらの本をご参考にして下さい。僕もまったく予備知識がない状態でこの本を読みましたが、不完全性定理が何たるかを直感的に理解することができました。

 

 

こちらの本は、不完全性定理の内容を理解するのみでなく、しっかり証明まで追ってみたい方への入門書として優れています。特に本記事で触れた「矛盾からはどんな命題でも導ける」という事実は、厳密かつ明快な方法でこの本の中に記述されています。こちらも前提知識なしですぐに読み始めることができます。

 

 

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