人はなぜルベーグ積分するのか?

10分で分かるルベーグ積分のキホン

前回の記事ではつらつらとルベーグ積分の考え方を解説しました。さて、このように苦労して新しい種類の積分を定義するメリットは何でしょうか?この記事では、ルベーグ積分の有用性を紹介していきます。

リーマン積分の一般化

まず強烈に意識してほしいのは、ルベーグ積分とはリーマン積分の一般化であるということです。一般化であるというのは、ルベーグ積分はリーマン積分を含む、より広い概念ということです。リーマン積分が鮭おにぎりだとしたら、ルベーグ積分は一般のおにぎりです。

例を通して理解を深めてみましょう。次のような定理があります。関数$f(x)$が$A=[a, b]$でリーマン可積分だとしたとき、$\int_a^b f(x) dx = \int_A f(x) d\mu(x)$が成り立つ。ただし、$\int_A f(x) d\mu(x)$は関数$f(x)$の$A$におけるルベーグ積分を意味します。この定理は、関数$f$がリーマン積分可能なら、$f$のルベーグ積分とリーマン積分の値が等しくなると主張しています。

他方、リーマン積分できない例を挙げてみます。次のような関数$f$をディリクレ関数と呼びます。

$\begin{eqnarray} f(x) = \begin{cases} 1 & ( x \in \mathbb{Q} ) \\ 0 & ( x \in \mathbb{R} \setminus \mathbb{Q} ) \end{cases} \end{eqnarray}$

ディリクレ関数は有理数のxに対して1を返し、無理数のxに対して0を返す関数ですが、リーマン積分できないことで知られています。しかし、実はディリクレ関数はルベーグ積分可能であり積分の値は0となります。

以上2点から分かるのは次のことです。関数$f$が与えられたとき、もし$f$がリーマン可積分ならリーマン積分とルベーグ積分の値が一致する。リーマン積分できなくともルベーグ可積分かもしれない。ルベーグ積分はリーマン積分に比べ、より多くの関数に対応可能な積分です。これは明らかな利点です。

ルベーグ積分の定理

ルベーグ積分の理論には有用な定理が多くあります。例えばルベーグの優収束定理は

{fn}測度空間 (S, Σ, μ) 上の実数値可測関数の列とする。この列はある関数 f各点収束し、次に述べる意味である可積分関数 g によって支配されるものとする:|fn(x)| ≤ g(x) が、すべての添え字 n および S 内のすべての点 x に対して成り立つ。このとき f は可積分であり、$\lim_{ n  \to \infty } \int_S f_n d\mu = \int_S f d\mu$が成り立つ。

優収束定理

という主張をしています。定理の条件を並べると

  • ${f_n}$は$\lim_{n \to \infty} f_n(x) = f(x)$となる関数列。すなわち${f_n}$が$f$に各点収束する。
  • $f_n$は可測。
  • $g$はルベーグ可積分。
  • $|f_n(x)| \leq g(x)$が成り立つ。

可測とは、測度論の言葉で”性質の良い”関数を指しています。連続関数は可測関数であることが知られているので、連続より少し弱い概念だと思ってもらって差し支えありません。これらの条件が満たされているとき、

$$\lim_{ n  \to \infty } \int_S f_n d\mu = \int_S f d\mu$$

すなわち積分と極限の交換が許されます。リーマン積分で積分と極限の交換を行うためには関数が一様収束する必要があったので、それに比べると随分緩い条件で定理が利用できることが分かります。

幾何的な理解からの解放

最後に、ルベーグ積分の利点として幾何的な解釈を必要としないことが挙げられます。ご存知の通り、リーマン積分の場合は曲線下の面積を細長い長方形で近似して求めるので、そこには必然的に図形的な理解が伴っています。しかしながら、ルベーグ積分では積分範囲を集合として扱い、(集合の大きさ)×(関数の値)で積分の計算を行うため、積分範囲である集合が4次元であろうが5次元であろうが関係がありません。というのも測度を使って集合の大きさを測ることさえできれば、4次元の空間を図示する必要がないからです。そのような抽象化の技術こそ、見えないものを見えるようにする数学の神髄なのではないかと思います。

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